飯島 広美

 不二般若道場で行われる摂心(せっしん・一定期間集中的に坐禅すること)に会員の皆様が一人でも
多く参加されることを願って、2013年(平成25年)夏季大摂心の様子を報告する。

<摂 心 の ご 案 内>
 泊りがけの坐禅会です。

 毎月、第2金曜日暁天坐から月曜日暁天坐までの
 4日間行われます。

 5・8・12月は8日間となります。

 摂心中の途中参加および参加日数は自由です。

 会 場:不二般若道場(静岡県裾野市大畑113)

 安 単

 日程は、8月1日(木)〜8日(木)の7泊8日。前日の7月31日(水)安単(あんたん・自分の坐禅する場所・単に着坐すること)。

 20時より30分ほど坐禅、その後茶礼があり安単の行事が終わる。

 初日・1日(木)暁天坐

 3時45分、直日(じきじつ・道場における重要な役割、坐の進行係)が打ち鳴らす開板(起床を告げる板木)で起床。洗面等の後、仏足頂礼の拝をして坐禅堂に入る。

 4時、老師(ろうし・参禅者の指導に当たる人の尊称)入堂。観音経、般若心経、三綱領、四句誓願の読誦。続いて「一心頂礼十方常住三宝」と唱えながら仏足頂礼の拝を3回繰り返す。ここまでが朝のお勤めで、続いて坐禅タイムとなる。

 初日なので、はじめに山本龍広老師によるご垂示。

 「今日から8月大摂心が始まるわけですが、この大摂心は釈定光老師(釈迦牟尼会創立者)が富士の裾野にあって清流流れるこの地に、不二般若道場を設立(大正11年)し、その開単を記念して始めたものです。お釈迦様が弟子たちとともに修行された祇園精舎に習って建てられたこの道場で、8月大摂心が行われるということはたいへん意義深いことですので、一坐一坐綿綿密密に坐ってください。」

 歴史ある摂心に参加できたことに感謝するとともに、「よし、しっかり坐ろう!」との思いを新たにする。

 中日・4日(日)の夜坐は総参

 「そうざーん(総参)」。直日(土井征夫氏)の声が禅堂に響く。中日の夜坐の3炷目(3回目の坐禅の時)は総参である。堂内に喚鐘が持ち込まれ、直日が喚鐘を7つ、連打、2つと打ち、「これより総参を始めます。無得龍広老師に相見している者は全員入室のこと。単頭単より2名、直日単より2名、喚鐘台の前へ。」そして、喚鐘一打、「そーれ」のかけ声とともに最初の参禅者が老師の待つ隠寮(いんりょう・老師の居室、参禅者を指導する部屋でもある)へ。4人が入室を終えると、「残りの相見しているもの全員喚鐘台の前へ。」こうして相見者全員の入室が終わると、茶礼になる。老師を交えて茶菓をいただきながら参加者一人ひとりの自己紹介および一言がある。

 中日の昼坐は随意坐

 1時より坐禅堂に集まり、物故者(この1年間に逝かれた関係者、親族)の法要が営まれ、続いて先師の墓(裏の小高い丘に釈定光老師および苧坂光龍老師の無縫塔がある)に墓参。玄関前で老師を囲んで記念撮影。坐禅堂に戻って茶礼(スイカ茶礼)。 昼坐(通常は13時〜15時30分)は随意坐で作務(さむ・掃除や除草作業など道場における労働のこと)はない。随意坐や作務がないのは、参加者の休養と疲労回復という意味合いもあるように思える。

 誰もが坐れる場

 2日目・2日(金)10時碧厳録提唱でのご指導。
 「(坐禅堂に)冷房が入ってずいぶん涼しいですね。以前は汗をだらだら流しながら坐ったものです。それはそれで尊かったわけですが、冷房を入れることによって失ったものもたしかにありますね。でも、お年寄りもいれば、体の悪い人、体調の優れない人もいるわけですから、誰もが坐れる場が必要ですね。そういう意味で私は冷房を入れて良かったと思います。」
 どのような人でも坐禅ができる環境づくりを、どこまでも大切に思う老師の言葉であった。エアコンが入るまでは、汗だくになり暑さや蚊と格闘しながらの坐禅であった。また、冬は冬で使い捨てカイロを何枚も貼り寒さに耐えながらの坐禅であった。坐禅堂にエアコンを入れるという老師並びに理事の方々の英断に感謝したい。
 参加日程も自由である。仕事の関係で土日だけ参加ということも可能である。今回の大摂心では、初日・1日(木)の参加者7名。土曜日10名、日曜日11名、最終日・8日(木)6名。全日程参加は5名、延べ参加者数は13名であった。

 調身、調息、調心

 中日・4日(日)10時碧厳録提唱。
 提唱のはじめに坐禅の基本である調身、調息、調心の仕方について懇切丁寧なご指導があった。「おしりのところに2枚のお皿がありますね。そこで坐る。腰を立てて、鼻とへそ、耳と肩と相対するようにして坐る。そして、吐く息は丹田(たんでん)に、吸う息は気海(きかい)に。へそのところから下へ順にお腹をすぼめていって息を吐くどん詰まりのところが丹田。そこに吐く息と一緒に意識を集中して吐いたところで、数息観(すそくかん・呼吸を数えることによって精神の統一を図る修行法)であれば『ヒトー』、公案(こうあん・禅の修行のために与えられる課題)であれば公案を拈提(ねんてい・公案を工夫参究すること)する。そして、丹田から上に息を吸いながら徐々にお腹をふくらませていき、息が満ちたところが気海(気の海)。息を吸いながら息に意識を集中し、吸い終わったところで数息観であれば『ツー』と息を数える。吐く息『フター』、吸う息『ツー』というように、綿綿密密にそれを繰り返していくと丹田気海に禅定が自ずと深まってくる。坐の途中で眠るというのは、どこか集中力が中途半端と言うか、綿密さが足りないわけですね。」
 時に坐睡してしまう私には胸の痛む一言であった。私は太腿が太く足首も硬いので半跏趺坐をしている。それでも足首を太腿まで上げて組むのは、摂心のように長い期間坐り続ける場合、難しい。そこで今回は鎮痛のための塗り薬を持参し、痛み出した膝や腰に塗った。すると即効性があり痛みがやわらぎ、摂心後半では1炷坐(40分)が短く感じられるほどだった。
 また、別の提唱時ではあるが、下腹に力を入れることの可否についてのご指導があった。「呼吸する時に自然と力が入るのは良いが、意識して下腹に力を入れるのはいけませんね。つまり、下腹に力を入れないということですね。呼吸に合わせて丹田や気海に意識を集中すると、自然と少し力が入ります。そういう力なら良いですが、意識して力を入れてはいけないということです。」

 典 座

 摂心のたびに典座(てんぞ・道場における料理係)として、毎日食事をつくってくださるのが森本千春大姉である。
 一品一品心づくしの料理が出される。
 粥座(朝食)のお粥だけは、参加者のうち古参の方が交代でつくる。
 初日のメニューは、粥座(朝食)お粥+2品+沢庵(沢庵は毎食付き、食事の最後にお茶で食器を洗う時に用いる)。斎座(昼食)ちらし寿司+汁+2品+桃。薬石(夕食)ご飯+汁+3品+ちらし寿司の残り。よく一汁一菜というが摂心時の食事は多品目で栄養のバランスも良い。もちろん精進料理で肉類はない。不二般若道場に来ると尿が無色透明になるのは規則正しい生活と食事の故である。
 私たちが坐禅に打ち込めるのはひとえに千春大姉のおかげである。 

 独参

 私は平成21年3月の坐禅基本講習会に参加し、釈迦牟尼会とのご縁ができた。そして8月大摂心にて山本老師に相見(しょうけん・正式に参禅指導を受けるために願い出ること)の礼を取り、独参(どくさん・入室して老師に公案の見解を呈すること)を始めた。
 20歳半ばから10年ほど曹洞宗系の師について参禅し公案もいくつか数えていたので、相見時にはその禅歴やすでに透った公案を記したものを持参した。
 老師より「公案についてはやったものもあるでしょうが、当会の公案の順序にしたがって始めからやってもらいますが、それでよろしいでしょうか?」とのお言葉があり、もちろん「ハイ」とお答えした。そして二音の数息観のやり方と「しっかりと数息観を練るように」とのご指導があり相見が終了した。次の独参からは入室ごとに一音の数息観、随息観(ずいそくかん・呼吸を数えず、呼吸に意識を集中させることによって精神の統一を図る修行法)と順次ご指導があり、8月23日の東京道場・日曜坐禅会にて最初の公案「趙州無字(じょうしゅうむじ)」の公案をいただき今に至る公案修行が始まった。
 室内での老師はいつもの穏和な印象とは異なり眼力炯々として人を見抜く底の力があり、ここが関所というお顔でドン坐っておられる。室内は臨済宗隠山派(いんざんは)で、釈迦牟尼会創立者の釈定光(しゃくじょうこう)老師は西山禾山(にしやまかさん)老師の直孫である。室内には禾山老師創始の公案がいくつか伝わっている。
 独参して公案の見解(けんげ)を呈すると、「まあ、それでもいいでしょう。」と一応許されることがある。そういうときは必ず、老師より室内伝統の見解が伝えられる。そして次の公案が老師直筆の紙片で手渡される。公案とその伝統の見解を正確に伝えていこうとする並々ならぬ意志を見て取ることができる。摂心のたびに全日全力で私たちをご指導くださる山本老師の法恩は言葉では言い尽くせないほど深い。


 最終日・8日(木)大摂心円了

 私は前日に帰宅したが、最終日は暁天坐、作務、粥座のみで、7時過ぎから放散茶礼があり、円了となる。
 2010年(平成22年)8月釈迦牟尼会創立90周年記念墓参会が不二般若道場で開催された折に、「さらに精進して山本老師や皆さんとともに創立百周年を祝いたい。」との思いを述べたが、その志は今も変わっていない。


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