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彼の朝は、かけがえのない唯一の存在である自分の『主』を起こすところから始まる。白い手
袋を嵌めなおし、彼はまっすぐにその『主』の部屋へと向かった。
「おはようございます、奥様」
屋敷の奥にある、女主人の部屋。その部屋に許可なく入室することが出来る異性はただ二
人。一人は言うまでもなく彼女の夫であるが、もう一人は彼――女主人の『陰影執事』たる松 川依織その人だった。
「ん……おは、よう……」
まだ幼い彼の『主』……十七になったばかりのむぎはあどけない声で答え、大きなベッドの上
で身じろいだ。その様子を愛しく思い、抱き締めたい衝動を『執事』である彼はさらりと押し隠 す。『陰影執事』としての彼が持つ役割が重いものであると自覚しているから、その領分を侵し てはならないことも理解している。
「お目覚めの時間ですよ。すぐに朝食になります」
そう言って彼は、手ずから用意した朝の紅茶をカップに注ぎ、『主』に差し出した。彼女が躯を
起こすと、薄い西洋風の夜着の下……首筋から胸元にかけて、鮮やかな痕が浮かび上がる のを彼は見逃さなかった。
それは彼女が昨夜、夫である御堂一哉に愛された印であることも、依織は承知している。む
ぎが一哉に嫁いでから、まだ日も浅い。夫婦仲が上手くいっていることを喜びこそすれ、嫉妬 心など抱いてはならないはずなのに――。
その痕が、一哉からの挑戦状のようにも見えてしまうのが忌々しい。手袋の下で拳を握り締
めながら、依織はにこやかな笑みを崩さずに躯を起こしたむぎの背にさりげなく手を回して支 えた。
「今朝の紅茶はアール・グレイですよ。お好きでしょう?」
そう訊ねると、彼の腕の中でむぎは拗ねたような顔を見せた。
「その、『奥様』っていうのイヤ。何だかヘンじゃない?」
カップに口をつけながら言うむぎに、依織は苦笑した。
「……と言われましても。嫁がれて御堂家の『奥様』となられたのですから、そうお呼びしなくて
はならないでしょう」
確かに、まだ十七の彼女を『奥様』と呼ぶのは不自然さが残るが、公にも彼女は『御堂家令
夫人』である。鈴原家の令嬢であった頃とは、立場も大きく変わってしまっている。
ただ一つ、変わらないのは。
依織が、むぎの『陰影執事』であるという事実のみ。彼女が幼い時から、依織はむぎの『陰影
執事』として彼女を守り、導いてきた。いわば、彼はむぎのためだけに存在していると言っても 過言ではない。常に彼女の傍に在り、彼女の命にのみ従う。彼女が嫁いだからといって、それ は変わらないのだ。つまり、彼女の夫……一哉さえも、依織を意のままには出来ない。
「皆にそう呼ばれるのは仕方ないと思うけど、依織にまで呼ばれるのは馴染めないんだもの」
そういう表情は幼い時から変わらない……と、依織は懐かしくもいとおしくも思う。
「……むぎお嬢さま。これでいいかな」
二人きりだと思えば、口調も以前のものに戻る。彼女の背を抱いた手にもかすかに力が籠も
った。
「うん! 何だか急に色々なことが変わっちゃったみたいで、心細かったの」
そう言うと、むぎは安心したように紅茶を飲み始める。愛らしいその仕草に目を細め、そのま
ま彼女を抱く腕に力が入りそうになった瞬間。寝室のドアが大きく開いた。
「むぎ。起きたのか?」
つかつかと入って来たのは、御堂家の主人……つまりむぎの夫である一哉だった。一哉は
悠然と部屋を横切り、寝台にいるむぎのすぐ傍に腰掛ける。
「――一哉様。まだ奥様の支度がお済みではございません。幾ら一哉様と言えども、断りもなく
奥様の寝室に入られるのはご遠慮願いたい」
さっと『執事』の顔を取り戻し、姿勢を正した依織を、一哉は軽く睨んだ。依織が決して自分を
『旦那様』と呼ぼうとはしないところもまた小憎らしい。
「うるさい。夫が妻の顔を見に来て何が悪い?」
一哉は一哉で一歩も引かない。政略結婚であったとは言え、この新妻を非常に気に入ってい
るのだ。彼女に夢中になっていると言ってもいい。そんな彼にしてみれば、依織がいつでも執 事として彼女に付き従っているのが気に入らない。
「か、一哉くん……」
挟まれる形となったむぎがおろおろしながら夫を呼んだのを依織は聞き逃さなかった。
「奥様。その呼び方はあまりにも軽々しすぎると思いますが?」
そう嗜めた依織に、一哉は勝ち誇ったように言った。
「いい。俺がそう呼ぶのを許したんだぜ? むぎはそっちの方が呼びやすいと言うからな」
むぎを抱き寄せ、軽い口吻けをした一哉の頭から紅茶を浴びせてやりたい衝動をかろうじて
堪え、依織は一歩引いて一礼した。
「それは失礼いたしました。ですがご朝食前の奥様のお支度は、何と言われましても執事であ
る私の仕事。お邪魔はなさらないでいただきたいのですが? どうぞ食堂でお待ちください」
慇懃に言うと、依織は反論しようとする一哉を部屋の外に追い出してしまった。
「依織ってば」
呆れたように言うむぎを振り返り、依織はにっこりと笑った。誰が何と言おうと、彼にとっては
むぎが唯一無二。ことが執事の領分に関することなら、一哉を排除することなど何でもない。
「では、早くお支度をしましょう。今日は桜色のドレスを用意いたしました。むぎお嬢さまによく似
合う」
すでに習慣になってしまった朝の騒動をものともしない依織の笑顔に、むぎは小さくため息を
ついたのだった。
御堂家の一階にある豪華な食堂で、若い夫婦は揃って朝食を摂る。御堂家は新興の華族の
家柄であったが、維新後の混乱期にいち早く西洋の技術と情報を取り入れて自社の産業を発 展させ、殖産興業の波に乗せて大きな財閥を築いていた。一哉はその三代目にあたり、実際 に今御堂財閥を動かしているのはこの若き総帥である。先代と先々代夫妻はすでにそれぞれ 違う場所に屋敷をかまえ、楽隠居をしている。したがって、大きなこの屋敷で暮らすのも今は一 哉とむぎ夫妻だけなのだった。当然、御堂家の執事やメイドたち、そして『陰影執事』である依 織を含め、使用人は数多くいるが。
「むぎ、今夜の予定だが……。羽倉男爵邸で夜会がある。用意しておけよ」
朝食が半ば済んだ頃、一哉がむぎに向かって言った。
「夜会? えぇと……もしかしてダンスとかある?」
不安そうにむぎが訊いた。
「ああ、もちろん。まさか踊れないってことはないよな?」
からかうように一哉が言うと、傍に控えていた依織がむぎの代わりに答えた。
「奥様には舞踏会用のステップはすべてお教えしてございます。夜会で恥をかかれるようなこと
は決してございません。ああ、奥様。ご不安でしたら、この後私とおさらいをいたしましょうか」
「本当? 依織、そうしてくれる?」
ぱぁっと明るい表情になったむぎを見て、一哉は面白くない気分にさせられた。本当に、この
松川という『陰影執事』ときたら、常に自分とむぎとの間に入り込んで忌々しいことこの上ない。 自分とむぎに限って言えば、『陰影執事』という制度などまったく必要もないのに……。しかし、 『陰影執事』が社会的にも花嫁の持参金の一部、教育係として花嫁に付随するものと認められ ているのだから、仕方が無い。正直な話追い払ってしまいたいのだが、一哉にはその権利が ないのだ。
「……それは頼もしいことだな。ああ、松川。言っておくが、夜会は夫婦で招待されている。執
事の同伴は必要ないからそのつもりで」
珈琲を飲みながら、一哉は依織に釘を刺す。ささやかな意趣返しのつもりだった。夫婦であ
るのは自分とむぎなのだと、この無礼な執事にもいい加減分からせなければならない。
「承知しております。あくまでも私は陰影執事。一哉様が不在の折、奥様のお相手を務めるの
が私の領分ですから」
依織は、さして堪えていないように微笑んだ。
そのお相手が一番の問題なのだろう……! と思いながらも、一哉は反論出来なかった。一
哉がどれだけむぎを愛しているとしても、四六時中むぎの傍にいるわけにはいかない。悔しい が彼が不在の間は、むぎに関するすべては依織に委ねられるのだから。
「一哉様は安心してお仕事にお励みください」
むぎのカップに恭しく紅茶を注ぎながらそう言われた一哉は、持っていたカップごと珈琲を依
織に叩きつけたくて仕方が無くなるという、いつもの発作を抑えるので精一杯だった。
◆
「夜会ということですから、本格的な舞踏会ではなく、簡単な円舞曲でかまわないでしょう。覚え
ていらっしゃいますね? 奥様」
舞踏室でワルツにレコードの針を落とした依織が訊いた。
「……だから、『奥様』はやめてって言ったのに」
軽く足元でステップを確かめるようにしたむぎが、頬を膨らませる。すぐに彼女の手を取り、
腰を抱き寄せた依織が微笑む。
「承知しました、むぎお嬢さま。さあ、行くよ……俺に合わせて」
舞踏室には二人きりで、音楽も大きな音で鳴っている。それをいいことに、依織はむぎが望
むような以前の口調に戻していた。むぎは昔から、令嬢扱いされるのを嫌がった。『陰影執事』 である依織にもそうした態度で接し、自分に近い存在として接してくれることを望んだ。それは、 嫁いでからも変わらない。むしろ、一哉の妻となった後の方が、依織と二人きりでいる時に昔と 同じように扱ってもらいたがる。嫁いで、急激に環境が変わったせいもあるのかもしれない。
「一歩目はライズしてから後ろ……そのままターン。戻って次のカウントでシャッセ。そう」
優雅な声で曲に合わせてカウントを刻みながら、依織はむぎをリードしていく。その腕に身を
委ねていれば大丈夫なのだと、むぎはもう幼い頃から知っていた。ずっと傍にいて、ずっと自分 を守り続けていてくれた、自分だけの執事。
「上手だ。何も心配することはない」
フロアを二周もしてくれば、だいぶ躯もほぐれてステップも軽やかになる。依織に褒められ、
むぎは嬉しそうに微笑んだ。
「本当? これなら、一哉くんにも恥をかかせたりしない?」
すると、その言葉に反応したように依織は眉を顰める。
「……もちろん。俺のお嬢さまは完璧だよ。彼など気にすることはない」
途端に不機嫌そうになった依織を、むぎは不思議そうに眺めて言った。
「ねえ、依織は一哉くんのこと、嫌いなの?」
思わず依織の動きが止まる。
嫌いか? だって? ああ……出来る事なら抹殺してしまいたいくらいだ。自分が大切に守っ
てきたむぎを、堂々と自分のものにしているのだから。
「むぎお嬢さまは? 一哉様のことをどう思っているの?」
依織は自分の感情を抑え、逆にむぎに訊いた。
「え? あたし? 一哉くんのこと……? うん、好きだよ?」
無邪気にむぎは答える。
「結婚する前は、どんな人か分からなかったし、不安だったけど……。一哉くん、すごく優しい
し。お仕事は忙しそうだけど、なるべく時間作ってあたしの傍にいてくれるんだよ」
嬉しそうに言ったむぎを、依織は思わず抱き締めていた。
「ちょっ……と、依織?」
驚いたむぎが依織を見上げると、依織はそのままむぎの唇を奪う。
「っ……! いお……」
「では、確かめましょうか。貴女が、『奥様』としての務めを十分に果たしているかを……ね。昨
夜は、ちゃんと私が教えたとおりに出来ましたか?」
依織の口調が『執事』のそれに戻る。そして、何を訊かれているかを悟り、むぎは頬を赤く染
めた。
「で、出来たよ……? ちゃんと、教えてもらったとおり……」
『陰影執事』は主たる令嬢の身の回りの世話をすべて行うと同時に、『教育係』でもある。そし
てその『教育』は、ダンスやマナーだけでなく、『夜の教育』にも及ぶ。一定以上の身分の令嬢 は、嫁ぐ際に何も知らずに嫁ぐわけではない。閨ごとにもある程度通じていなければならない からである。
そして、むぎの躯を拓き、すべてを教え込んだのは他でもない依織だった。
「そう。それでは、『おさらい』です。私はお嬢さまの教育の成果も確かめねばなりませんから」
依織はむぎを抱き上げ、出窓の部分に座らせた。そして、長いドレスをたくし上げて白い足を
開かせる。
「さあ、教えて。どんな風に可愛がってもらったの? ココを、たっぷりと弄ってもらったのだろ
う?」
途端に意地の悪い表情が依織に浮かぶ。いつもは彼女を甘やかしすぎるくらいに優しい男な
のに、こういう時には酷薄にさえなるのだった。
「依織っ! ダンスは……」
「ダンスはもうおしまい。君は優雅に踊れていたよ。他の夫人や令嬢たちにだってひけをとらな
いさ。俺が教えたのだからね。それより、俺はこちらの成果がどうなのかを知りたいんだよ」
依織は白い手袋を外し、かけていた眼鏡も外して胸のポケットに差した。眼鏡を外した時、彼
が本気なのだということを、むぎはもう幼い頃から知っている。
「指で? それとも舌で弄ってもらったのかな? ねえ、むぎお嬢さま?」
依織の意地悪な指先がむぎの下着の上をなぞる。そのまま、下着を避けて直接依織の指は
むぎのそこに触れた。
「あぁっ!」
ワルツの音楽はさらに大きな音で鳴り、この舞踏室に他の使用人が近づく気配もない。ここ
はすでに、『陰影執事』である依織の支配する場所だった。
「ほらほら。もういい音で鳴り始めましたよ、お嬢さまのいやらしいココは。一哉様にも、そんな
愛らしい声を聴かせたのかい?」
もう、その花園は依織だけの場所ではないことを思うと、依織は胸が焦げ付くような嫉妬心を
覚えるのだった。
しかし、むぎが彼の咲かせた花であることは間違いないし、彼が一生をかけて守って行くべき
存在であることに変わりはない。その点では、彼女の夫である一哉などに遠慮などしない。
「や……ぁ、ん! そこ、だめぇ……」
依織によって『教育』を施されたむぎの躯は、従順に依織の愛撫に反応している。すでに滴る
ほどになったその場所を指で探りながら、依織はむぎに訊いた。
「昨日もこんなに濡らしてしまったの? 一哉様はどうやってココを愛してくれた?」
むぎは自分の手で膝頭を掴みながら答える。
「ん……舐め、て……いっぱい、零れてるぞって……」
幾ら陰影執事といえども、夫婦の寝室までは立ち入ることが出来ない。けれど、昨夜の二人
の様子が目に浮かぶようで依織は唇を噛んだ。
「そう。はしたなく零してしまったんだね、お嬢さま」
依織もむぎの足を掴むと、顔を近づけてそこに舌で触れる。電流が走ったように、むぎの躯
が大きく震えたのも構わず、より深く依織は貪っていく。
「ひあぁ! 依織……それ、や……」
「知っているよ。お嬢さまは昔から、ここを攻められると泣きたいくらいに悦いのだろう?」
彼の『宝物』の躯をどう弄れば、どう反応を返してくれるのかも、陰影執事たる依織は熟知し
ていた。くちゅくちゅと指で花びらをかきまぜながら、舌先でひくひく揺れる花芯を突付く。それ だけでむぎは悲鳴のような歓喜の声を上げた。
「このいやらしい真珠も、彼は愛撫してくれた? こうやって?」
軽く歯を立てれば、中にある依織の指はきゅっと締め付けられた。自分が教えたとおりに反
応するむぎの躯が愛おしい。
「ン……ッ! 一哉くんも……言った……いやらしいな、って。震えて、誘ってるって……」
喘ぎ喘ぎ、むぎは素直に閨の様子を語る。それは依織にとって拷問に等しいものでもあった
けれど、自分の育てた『お嬢さま』が閨できちんと振舞えているかどうか確かめるのも、また陰 影執事の務めでもあった。
「そうだ、誘っているよ。お嬢さまがいやらしく濡らして、そして勃たせたこの真珠はね。それで、
お嬢さまはどんなおねだりをしたのかな?」
決してむぎがそのまま達してしまうことのないよう加減しながら、依織は愛撫の手を休めずに
むぎに問う。むぎはその状態が苦しくて、早く解放して欲しくて、素直にその言葉を口にした。
「あ……ぁ、欲しいの……! 昨日も、『旦那様のが、欲しいです』って……! ちゃんと、言え
たよ……?」
むぎは、自らの花びらを指で拡げるようにして依織にねだる。昨夜一哉にそうして見せたよう
に。それが依織にどんな感情を覚えさせるか知らぬげに……。素直に、『教師』に対して答える 『生徒』のように。
「よく、出来ました。それじゃあ、中は? ちゃんと一哉様を受け入れられたかな」
嫉妬と独占欲を押し殺し、依織は自分の熱をむぎへと近づける。『陰影執事』は『主』に対して
私情を挟んではならない。あくまでも彼は執事として在らねばならないはずなのに……。
むぎに対しては、それが出来そうにない自分をもどかしくも情けなくも思うが、仕方が無い。
それだけ彼女は、依織にとっては特別な存在なのだから。
『教育』にかこつけて一哉の不在の間、むぎを独占する権利があってしかるべきだ。
「やっ……! 依織の、依織の……入って、くる……ぅ!」
むぎが依織に腕を伸ばした。その腕を引き寄せ、自分の首に回しながら、依織はむぎの中
へとゆっくり侵入していった。
「ちゃんと出来たようだから、ご褒美ですよ? たくさん味わってください」
じゅぷじゅぷと音を立てて、依織はむぎに律動を与える。むぎはそれを受け止め、甘く依織に
絡みついてくる。彼が教えたとおり、中を蠢かせて。
「せっかくワルツがかかっているのだから、それに合わせていきましょうか?
ほら、ほら……っ」
依織はむぎをからかうように、「ワン、ツウ、スリィ」と言いながら三拍子を刻んだ。軽やかなワ
ルツの音楽に、淫らな水音が混ざり、むぎに眩暈さえ覚えさせる。
「やぁっん! 依織の、ばか……」
しっかりと依織に縋りつきながら、むぎもまた腰を動かした。依織に『教育』された躯は、依織
の求めるままに反応し、踊ることが出来る。自らも……そして依織の躯をも高めながら。
「ふふ、『ばか』とは酷いな。私はあくまでも『教育』の成果を確かめているだけですから? ダ
ンスだけではなく、こちらもお上手ですよ、むぎお嬢さま」
手袋を外した指先が、むぎの頬を優しく撫でた。白い手袋をしている時、むぎにとって依織は
紛れもなく『執事』であるのだけれど、手袋を外してむぎに触れる依織は、幼い頃から傍にいた 大切な存在、『依織』だった。彼に対して抱く感情が、家族へのそれと、そしてまた一哉へのそ れとどう違うのかむぎにはまだ分からなかったのだが。
そしてそれが依織の心を苦しめる一因であることを知らぬままに、むぎは依織の躯に縋って
啼く。
「依織、イッちゃ……う、あたし……イッ……!」
依織がむぎの最奥を抉ると、むぎはキツく中の依織を締め付けてくる。ひくひくと蠕動する中
の様子で、むぎの頂点が近いことを察した依織は少しだけ腰を引いた。
「おや? もうイッてしまうのですか、お嬢さま? まだ早いのではありませんか?」
そう言ってむぎの顎に指をかける。愛らしい彼の『花』は、瞳を潤ませ、熱い吐息をその唇に
載せた。
「だって、だって……! 依織の、熱いんだもの! 大きくて、硬くて、あたしのいいところに当
たってるの……」
むぎの、そんな『奥様』らしからぬ発言に、依織は苦笑した。
「やれやれ。そういう淫らな言葉を言えるようにお育てしたつもりはないのだけれど?」
お仕置きに、と依織はむぎの花芯に指を触れる。瞬間、より大きくむぎがのけぞった。
「きゃあぅっ!」
「いいコントラチェックですよ、お嬢さま。とても優美だ」
依織は褒め、そのままむぎを絶頂の波に押し上げるように、鋭いピストンを繰り返した。
「あああぁっ!」
歓喜の声を上げてむぎが達して行く。その彼女の右の首筋に、依織は小さな痕を残した。彼
の脳裏には、今朝彼女の躯に散っていた、無数の所有印がある。現在彼女を所有している者 ……御堂一哉、という男が残したそれに対する、ささやかな意趣返しだ。
ワルツの音楽に乗せて、依織が施す『おさらい』は午前中いっぱい続けられたのだった。
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