the latter part
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Love Destiny
お前といると。
いつも俺の心は平静ではいられない。
こんなふうに心ごと揺らされるのも、運命ってヤツなのか……?
the latter part
尽が言い残していった、意味ありげな発言を、俺は気にしないわけにはいかなくて。
そのまま一人、家に帰ることもできずに俺はスタジオに向かっていた。
そう。
がバイトしている『ALCUARD』の隣の、だ。
スタジオの一階のロビーからは、『ALCUARD』の中が少しだけ見えたから……俺はモデルの
バイトをしている時も、休憩時間なんかにロビーで休むフリをしてをこっそり見てたんだ。
遠くからでもの笑顔を見るだけで、疲れも癒されるような気がして。
通りがけに中を覗いたら、が『ALCUARD』の制服を着て働いているのが見えた。
俺は、ちょっとだけホッとする。
が、バイトだって俺に嘘をついたわけじゃなかったから。
でも、まだ安心は出来ない。
が作ったもう一つのチョコレート。
渡すなら……きっと、バイト中か帰りだろうから。
「珪!? あなたどうしてこんなところにいるのよ!」
誰にも見つからないようにこっそりスタジオに入ったのに、すぐにあっさりとマネージャーの橘さ
んに見つかってしまった。
「今日は撮影ないわよ? バレンタインデーだからってせっかく予定空けてあげたんじゃない…
…あ!」
橘さんがふふ、と小さな笑いを漏らす。
「分かった。ちゃんバイトしてるのね? でも、それだったら堂々と『ALCUARD』の中で待っ
ていればいいじゃない」
それは、できないんだ。
俺がいたら、はそいつに渡さないかもしれないじゃないか。
俺は、知りたいんだ。
が……俺以外のどんな男にチョコレートを渡すのか。
何も言わない俺に、橘さんは呆れたようにため息をついた。
「本当に珪は、ちゃんのことになると必死よね。いつでもちゃんのことしか見えてない
んだから。
でも、そんな格好じゃ逆に目立つわよ? あなたそれ制服のままじゃない。
いらっしゃい、服貸してあげるから。ちょうどもう撮影し終わった服があるのよ」
確かにそれはそうだと、俺は橘さんに頷いた。
いつもの控え室で貸してもらった服に着替え、もう一度ロビーに降りる。
「ほら、珪。これも」
橘さんが俺に被せたのは、黒いキャップだった。
「うん、それなら珪って分からないみたい。サングラスかければバッチリでしょ。多分、
『ALCUARD』にこのまま行っても大丈夫よ。
普段珪には絶対にコーディネートしない服だけど、けっこう似合ってるわよ? 今度そういう感
じでもいいわね」
そう言われてみれば、着慣れない感じの服装だ。
鈴鹿あたりがよくこんな服で街を歩いていたような気がする。
「まあ、探偵さんごっこ頑張って。だけどあんまりしつこいとちゃんに嫌われちゃうからほど
ほどにね?」
そう言って橘さんは俺にウィンクして、手を振りながらスタジオに戻って行った。
だけど、何気なく彼女が残した言葉が俺の胸にひっかかっていった。
俺……しつこい、のかな。
をこうやって見張るような真似をして……これって、を信じてないってことか?
だからも、こんな俺が嫌いになって……?
俺は首を振ってそんな考えを追い払おうとしたけれど。
一度根を下ろしてしまった不安は、いつまでも俺を襲い続けて。
キャップを深く引きおろし、誰にも分からないようにため息を一つ零した。
☆
結局俺は、『ALCUARD』の中にまで来てしまった。
バレンタインデーだっていうのに、『ALCUARD』は客が多い。
俺を席に案内したのはじゃない店員だったから、とりあえずにはバレていないみたい
で。
俺は奥の席に座ってコーヒーを飲みながら、をじっと目で追っている。
は忙しそうにテーブルの間を動き回っていた。
は、どんなに忙しい時でも笑顔を絶やさない。その笑顔は俺の大好きなものだったけれ
ど、がそれを他の客にまで見せるのが少しだけ気に入らなかった。
特に、男の客には。
の笑顔は、いつでも俺が独占していたかったから。
カラン、とドアが鳴り客が入ってくる。
あれは……姫条!?
嬉しそうに入ってきて、に話し掛けている。
まさか……姫条、なのか? 相手は。確かによくに声をかけてくるけど。
でも姫条は、コーヒーを一杯飲みながらと雑談をして帰っていった。
も、何も渡してはいない。
安堵しながら自分のコーヒーを飲んでいると、次に入って来たのは鈴鹿だった。
少し照れくさそうにに何か言い、ミルクを注文している。
鈴鹿……ありえない話じゃない。鈴鹿だってと親しくしている。それに鈴鹿は分かりやすい
からな……いつもは無愛想な顔がの前にくると真っ赤になるんだ。
だけど、鈴鹿もミルクを飲み終えるとそのまま帰っていく。
そんな鈴鹿と入れ替わりにドアを開けたのは……氷室先生!?
生徒のアルバイトの巡回指導だ……なんて言っているけど、嘘だろう。
先生だって、の前では時々声が裏返ったりしているからな。
ちゃっかりフォークダンスに参加していたこともあるし……氷室先生だって、の笑顔に心を
奪われてしまった一人に違いない。
俺は注意深く観察していたけど、やっぱり氷室先生もコーヒーを飲み終えるとそのまま店を出
て行った。
その後も。
三原や日比谷や……理事長までこの店に立ち寄る始末で、俺はコーヒーなんか呑気に飲んで
る場合じゃなかった。
すっかり冷めてしまったコーヒーを前に、俺は頭を抱えるしかなくて。
には、引きつけられずにはいられないんだ。
あの笑顔が、声が、まなざしが。
一瞬で心を奪っていってしまう。
本人がそれを自覚していないだけに余計にやっかいだ……。
途端に、自信なんて欠片もなくなってくる。
は、俺に好きだって言ってくれたけど。
何回もを抱きしめて、俺のものだって確認してきたけど。
いつまでは俺の傍にいてくれるんだろう。
「お客さま? コーヒーのお代わりはいかがですか?」
気がつくと、が俺の隣に立ってにっこり笑っている。
俺だってことはまだ気付いてないらしい。
俺は黙って頷いた。は笑顔のまま、熱いコーヒーを注いでくれる。
「ごゆっくりどうぞ」
微笑みながら遠ざかっていくの後ろ姿を、俺は抱きしめたかった。
この腕に閉じ込めて、もう誰にもを見せたくなかった。
は。
俺だと分かっていない、こんな客にも極上の笑顔で微笑むんだ。
そうして分かる。
もう俺は、なしでは生きてはいけないけれど。
はそうじゃないってことに。
明日……いや、今すぐにでもがはばたいていってしまいそうで、俺は砂のような焦燥感を
噛み締めていた。
「いらっしゃいませー!」
の元気な声が響く。
伏せていた目を入り口の方に向けると、そこには守村が立っていた。
寒さのためか、そうじゃないのか……紅潮した頬の守村を、が席に案内している。
守村は紅茶を注文したらしい。が頷きながら伝票に書き込み、カウンターの中に入ってい
く。
その間に、守村はペンケースとノートを出して何か問題を解いている。
真面目な、ヤツだもんな。
アイツは中学の頃から一生懸命で……こんな俺にも話し掛けてくれたりしたっけ。
俺も、守村のことは嫌いじゃなかった。
「お待たせしました」
やがてが戻ってくる。
その様子を見ていた俺は、思わず息を呑んだ。
が持っていたのは、紅茶を載せたトレーだけじゃなくて……ちょうど俺にくれたのと同じよう
な大きさの紙袋も提げていたんだ。
嬉しそうに笑ったが、それを守村に手渡す。
守村も、よりいっそう赤く染まった頬でそれを受け取った。
それを見て、俺は――。
もう、黙ってそこに座っていることが出来なかった。
立ち上がり、と守村の傍まで行って……の手を、強く握り締める。
「きゃあっ!?」
驚いたが声を上げて、店内にいた客たちが一斉にこっちを見た。
「、帰るぞ」
一言短く告げると、の手を引く。
「え? え、ええっ!? もしかして珪く……」
が最後まで言う前に、俺は入り口のドアを押して、そのまま外に出てしまった。
守村は、他の客たちと一緒にぽかん、とそんな俺たちを見送っていた。
「ちょっと、珪くん……痛いってば! それに、まだ私バイト中……」
「うるさい」
睨み付けてくるを逆に睨み返し。
俺はを抱き上げた。
「やだっ! 怖い……珪くん、降ろして!」
が身を捩ってそこから逃れようとした。
「暴れると、落ちるぞ?」
それだけ告げてしっかりとを抱えなおし、俺はすたすたと歩き出す。
が手を動かした拍子に、被っていたキャップが落ちた。俺は、それを拾うこともせず。
月の光が俺の髪を透かしていくのを、視界の端にとらえただけだった。
☆
暴れる仔猫のようなを何度も抱きなおしながら歩き。
俺の家までを連れてくると、部屋のベッドの上にを投げ出した。
「珪くん! これはいったい、どういうこと? いくら珪くんでも、強引すぎ……んんっ!?」
の肩を押さえてベッドに沈め。
無理やり唇を重ねてキスを奪った。
二人とも、冬の夜を歩いてきたからひどく唇が冷えている。
熱を移すように、俺はの唇を貪っていく。
これだけじゃ、足りない。
守村や、他の男たちに向けていたの笑顔を思い出して、その華奢な躯を押さえつける手
にも力がこもった。
『ALCUARD』の制服を見下ろし、白いブラウスに手をかける。
少し乱暴にそのボタンを外していく。
脱いじゃえよ。
こんな――誰にでも見せる笑顔と制服は。
俺のためだけに。
笑ってくれなくていい。泣いてもいいから、俺のためだけの姿になって。
ボタンが外れ、はだけたところから俺はキスを落としていく。
消えない痕を残すように、きつく吸い上げて。
の呼吸がだんだんに甘くなる。
それさえも漏らさず俺のものにしたいんだ。
「珪くん」
ふいに、が手を伸ばして俺の頬に触れた。
の白い肌に痕を残す行為に夢中だった俺は、そのあたたかな手の感触に、顔を上げる。
「どうして……そんな捨てられた仔猫みたいな目をしているの?」
はもう、怒っていなかった。
不思議そうに、そして俺を癒すようなまなざしでじっと見つめてくる。
「私はここにいるよ? どうしてそんな寂しい目で私を抱こうとするの?」
のまっすぐな瞳と言葉に、俺は胸がつまって。
躯を起こしてに背中を向ける。
どうして?
お前が、それを言うのか?
いつでも俺の心を揺さぶるのはお前なのに。
お前がいなくなってしまったら、俺は――。
ブラウスをはだけたまま、も起き上がり俺の背中を抱き締める。
「珪くん……ねえ、どうしたの?」
あたたかな鼓動を確かに背中に感じながら、俺は呟いた。
「守村のことが……好きなんだろ?」
さっきの『ALCUARD』での光景がフラッシュバックする。
嬉しそうに守村に紙袋を渡していた。
それを照れながら受け取った。
守村とあそこで待ち合わせをするために、今日バイトに入ったんじゃないかとさえ思えてくるじ
ゃないか。
しばらくの沈黙の後。
「はぁ!?」
呆れたようなの声が背中にぶつかった。
「何、それ……いつの間にそういうことになってるの?」
は強引に俺を振り向かせて睨む。
「だって……守村にチョコ、やっただろ?」
その視線を受け止めきれずに目をそらすと、はそれを許さないと言いたげにぐい、と俺の
頬をとらえて自分と向き合わせる。
「もしかして、さっき守村くんに渡した紙袋のこと? あれはね、守村くんに借りてた本を返した
だけだよ! 今日寄ってくれるって言ってたから持って来てたの」
「でも!」
俺は、頬を押さえるの手に自分の手を重ねた。
「お前が、二つチョコ作ってたって尽が……」
するとが、一瞬きょとんとした顔になって……吹き出した。
「うん、二つ作ったよ?」
だから……それを守村にやったんだろ?
そんな視線を送ると、はおかしそうに笑い続ける。
「あのね、珪くん。一つは私珪くんにあげたよね?
それで、もう一つは尽にあげたんだけど?」
尽!?
「朝早くチョコ作るの手伝わせちゃったから。お礼で、珪くんのと一緒に作ってあげたの。私、今
年はその二つしか作ってないし買ってもいないんだけどな……」
俺は、に頬を挟まれたまま何も言えなくなってしまった。
尽のヤツ……!
あんな思わせぶりなことを言うから、俺は……。
自分が貰ってたんじゃないか。
アイツに悪魔の羽根と尻尾が生えている姿が簡単に想像できて、悔しくなってくる。
「なぁに? 尽にからかわれたの?」
くすくすと笑うに、尽の姿が重なって。
やっぱりこいつら姉弟だよな……よく、似てる。
俺はそのままをしっかりと抱きしめた。
「け、珪くん苦し……」
俺の腕の中でもがくを、許してなんかやらない。
俺は、まるっきり馬鹿みたいじゃないか。
一人で勝手に疑って、変装までしてを見張って……。
情けなさと恥ずかしさと、それから安堵感で俺の腕にはどんどん力がこもる。
「、俺……まだお前の傍にいてもいいのか?」
に落とした言葉は、本当に心の底からの想い。
なあ、。
こんな俺だけど。
お前はまだ、俺の傍にいてくれるか?
「珪くんは……いつもそんなこと心配しているの?」
馬鹿だねぇ……と呆れたように微笑んで、は俺を抱きしめ返す。
「あたりまえじゃない。私が珪くんから離れてどこかに行けるわけないでしょう?
ずっとずっと、傍にいるよ。バレンタインのチョコも、珪くんにしかあげないから。これから、ずっ
と」
あたたかいのぬくもりと言葉が俺を包む。
「……尽にも、だぞ?」
俺は、尽にだってヤキモチ妬くんだから。
「うん……分かった」
頷いたは背伸びをして、俺の唇に唇を重ねた。
約束、と恥ずかしそうに微笑みながら。
その約束を、俺はしっかりと心に刻み付けて、にキスを返した。
CAUTION!
この先成人向け表現が含まれますので、
そういった表現が苦手な方、18歳未満の方はUターンをお願いいたします。
読後の苦情は受け付けられませんのでご注意ください★
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