the latter part
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Bond of Fortune
『オマエ、相変わらずアホやなぁ……』
電話口で呆れたようにそう叫んだのは、殿山センパイで。
俺はそれに、ただため息をつくしかなかった。
the latter part
が帰ってからしばらくして、電話が鳴って。
もしかしたらかもって電話に出た俺の耳に、殿山センパイの声が元気よく飛び込んでき
た。
『まーどかっ! ハッピーバレンタイン♪ どーせオマエ、今年はちゃんからの手作りチョコ
貰て浮かれとるんやろ? あ、もしかしたらちゃんまだそこにおるん? 久しぶりに話した
いなぁ……なあ、代わって』
それこそ、久しぶりのセンパイからの電話。
間が悪いっちゅーかなんちゅーか……。
「は、いません」
俺は自分でも分かるほどヘコんだ声でセンパイに答えていた。
『おらへんの? 何でや? まだ夕方前やろ……バレンタインの夜はこれからやで?
あっ!
もしかして、まどかオマエ……ついにフラれてしもたんか!』
驚いたような声で。
しかもどっか楽しそうに殿山センパイが叫んだ。
『あちゃー……もしかして俺間の悪い時に電話してしもたんかなぁ……まぁオマエがフラれたん
やったら、今度は俺がちゃんを……』
多分センパイは、いつもの冗談のつもりなんやろうけど……今回ばかりはまったくシャレになっ
てへん。
俺は、ため息をつくばかりや。
『んん? 何かおかしいなぁ。なあまどか、いい加減隠さんとちゃんに代われて』
「せやから――。は、ほんまにいてへんのですって!」
俺は思わず声を荒げた。
自分で言ってしまうと、余計にが出ていってしもた時のことを思い出してやりきれなくなる。
『……何が、あったん?』
ようやく、俺のただならぬ気配を悟って殿山センパイが声をひそめた。
俺は、ヤケになりながら、殿山センパイにコトの経緯を話したんやった。
『オマエ……相変わらずアホやなぁ』
しみじみと殿山センパイが呟いた。
そんなこと……言われんでもわかっとるっちゅーねん。
『そら、ちゃんも怒るで? 彼女の目の前で他のコの作ったチョコ美味い美味いって食うた
んやろ? 幾ら浮かれてたからて、さすがに俺もフォローしきれんなぁ』
そのとおりや。俺は、目の前でをグサグサ傷つけとったんや……。
けど、もっと殿山センパイに馬鹿にされてからかわれると思っとったのに、意外にもセンパイは
優しい口調になった。
『まどか、オマエ不器用になったな。前のオマエやったら、チョコなんて貰うだけ貰って適当に処
分しとったやろ。くれたコの一人と一緒にそのコの作ったチョコ食べるなんてせえへんかったよ
なぁ……。今のオマエは、ごっつ不器用やけど、俺は今のオマエの方が好きやで?』
「センパイ?」
俺には。
今、センパイが電話の向こうでどんな表情をしているか分かる気がした。
きっと、笑うてる。
バカにしたような笑顔やなくて、本当に俺を励ましてくれる時の、あの笑顔で。
『恋をして不器用にならへんヤツなんて、おらんと思うで?
オマエは不器用になれた。それだけで、こっちに居た時よりもえらい進歩や。
まぁ……そんな不器用の責任は、自分でとるしかないけどなぁ』
カチ、とライターの音が電話の向こうから聴こえる。
センパイがタバコに火をつけた音やろう。
『ここまで不器用になったんやから、とことん無様になってもええんちゃう? 今のオマエ、きっ
とかっこ悪いけど。大阪でカッコつけとったオマエよりは100倍はイイ男やで』
センパイの言葉が、1コずつ胸に響いて。
俺は立ち上がって思わず頭を下げとった。
「センパイ、ありがとうございます……! 俺、トコトン醜態晒してきますわ。に」
『おお、その意気や。もし万が一ダメやったら失恋パーティーしにそっち行ったるからな。あと、
ちゃんも口説きに』
イタズラに片目をつぶったセンパイが見えるようで。
俺は苦笑しながら言った。
「その心配はありませんって。ダメやったら、俺が何度でもまたを口説くんですから」
一応健闘を祈っとくわ……というセンパイの声を聞いて、電話を切って。
俺は上着を引っ掛けて外に出た。
夕陽が沈んでいくのが見える。
そうや……まだ、バレンタインデーは終わってへん。
俺は、まだまだ無様になれるんやから。
☆
夕暮れの街を、俺はバイクで駆け抜ける。
赤信号で停まるのがもどかしいほど。
俺はの家に向かってバイクを走らせた。
ちょうど夕陽が沈むのと同じくらいにの家の前に着く。
とりあえずインターフォンを鳴らしてみるけど、応えはなくて。
の部屋を見上げると、小さな灯りは見えたから。きっとは部屋にいてるんやろう。
道端に落ちていた小石を拾って、部屋の窓に軽く投げる。
コツン、と音がして、が気付いてくれるのを待った。
3度目に投げた小石で、カーテンの向こうの人影が動く。
は、そっとカーテンを開いて窓の外を見たけど……俺と、俺のバイクを見つけてサッとカー
テンを引いてしもた。
やっぱ、本気で怒ってるんやろな……。
それでも俺は、このまま引き下がるワケにはいかへん。
今度は携帯を取り出し、の番号をコールしてみる。
当然というか……すぐに留守電に繋がってしまった。
メールを送ってみても、反応はナシ。
こうなったら持久戦やな。
俺は、バイクにもたれてじっとの部屋の窓を見上げ続けていた。
しばらくして、いよいよ寒くなってきたなぁ……と思ってた時。
の家の玄関が開いた。
やっと出て来てくれたか! って思ったけど。近付いてきたのは、小柄な影。
「よ、姫条」
それは、の弟の尽やった。
「なんや……尽か」
あからさまにガッカリした声を出すと、尽が頬を膨らませた。
こういうトコは、にそっくりやな。
「なんやって、ごあいさつだよな! せっかく姉ちゃんからの伝言持ってきてやったのにさ」
それを早く言ってや。
「は!? は、何て……」
すると、尽はニヤッと笑っての口調を真似た。
「『今日は会いたくないから帰って』だってさ。姫条、お前何したんだよ〜?」
好奇心旺盛なこの小学生は容赦ないツッコミを入れてくるけど。
「そんなら尽、俺の伝言もしてくれへん? 『お前が出てくるまで俺はここから動かへん』って。
頼むわ!」
えー! と不満そうな尽の背を押してへの伝言を持っていかせる。
またしばらくすると、尽が出て来た。
「『勝手にすれば? 私は絶対会わないから!』ってさ。姉ちゃん、本気で怒ってるぜ?」
ちょっと心配そうな顔をした尽に、俺は手を合わせた。
「頼む、尽! 何とかを公園まで連れてきてくれへん? 俺はもう帰ったとか何とか言うて
……このままやったら埒があかんわ」
「やだよ俺、姉ちゃん騙すだなんてさ。しかも姉ちゃんを泣かせるようなヤツのためにさー」
じろっと尽が俺を睨む。
「……、泣いてたん?」
尽はため息をついた。
「帰って来てからしばらくはな。今は落ち着いてるけど……。俺、基本的に姉ちゃんの味方だか
らさ。いくら姫条でも協力はできな……」
「新しいゲームソフト2本!」
俺は、指を2本立てて尽の前に出した。
「それと、もう二度とお前の姉ちゃん泣かさへんって約束するから……頼むわ」
すると、尽はちょっとだけ考え込んで。
ニッ、と笑って指を3本出した。
「ゲーム3本なら引き受けてやるよ。あと! 姉ちゃん泣かさないって約束は絶対だからな。破
ったら俺、姫条のあんな写真やこんな写真を姉ちゃんに……」
「俺のあんな写真やこんな写真って何やねん……別に俺はそんな写真は……」
俺が呆れた声を出すと、尽は腕を組んだ。
「そう? 姉ちゃんと付き合う前の……さぁ……」
「うわっ! 尽お前何で……」
誇らしそうに胸を張って尽が言う。
「俺の情報網をナメるなよ? で。どうすんの? 約束、できるか?」
その時の尽のカオは真剣で。
ほんまに、のことが好きなんやなぁって思った。
でもな、尽。
俺もお前に負けへんくらいのことが好きなんや。
脅されへんかて、もう二度とを泣かさへん。それだけは約束するわ。
男の約束を指きりで交わして、尽は家の中に戻って行った。
俺は、バイクのエンジンをかけて公園へ向かう。
が……が来てくれることを、祈りながら。
15分くらいして、話し声といっしょに二人分の足音が聴こえてくる。
間違いなく、と尽やった。
座ってたブランコから立ち上がり、俺は二人の方へ近付いていった。
「」
驚いて俺を見るの手を、しっかりと握り締める。そのまま俺の腕の中に閉じ込めてしまっ
て。
「尽、さんきゅな。約束はちゃんと守るから」
驚きから、ようやく事態を悟ったは怒りで頬を紅潮させた。
「尽っ! あんた、騙したのね!? ひどい……こんな」
尽はすまなそうなカオで笑って、俺たちに手を振る。
「姉ちゃんもさ、いつまでも意地張ってないで仲直りしろって。
あ、今日は父さんも母さんも帰ってこないから、泊まってきてもいいぜ」
そう言ってウィンクを送ると、尽はものすごい勢いで走って帰っていった。
「尽―っ!」
は俺の腕の中でもがきながら、尽に向かって叫んで。
呼吸を整えると今度は俺の方を睨んだ。
「離して」
俺の方を、意地でも見ようとしない。
「私に話なんてないもの。十分わかったから。まどかは、私のチョコよりっ……!」
泣き出しそうな声のに俺は、すっぽりとヘルメットを被せる。
「とにかく。俺の部屋、行くで? しっかり掴まってへんと落ちるからな」
強引にをバイクの後ろに乗せて、エンジンをかける。
仕方なく俺にしがみついたの腕は強張っていて。
それが俺を、切なくさせた。
☆
俺のアパートに着くと、はついに諦めたのか、何も言わずに俺の後についてくる。
部屋の鍵を開け、中にを入れる。さっき……俺たちがケーキを食べて別れた、部屋に。
「コーヒー、淹れるか?」
そう訊いた俺に、は黙って首を振った。
会話が途切れる。
何か言わなアカン……そう思うのに、いざとなると言葉が出てこない。
「……返して」
そんな俺に、が一言言った。
「え? 返す、て……?」
訊き返すと、は俺を睨む。
「私のあげたチョコ。もういらないでしょ? まどかはちゃんと……愛情たっぷりのチョコ、食べ
たもんね」
皮肉げに言って、は俺のカバンからはみ出していたピンクのリボンを目ざとく見つけると、
それを自分の腕の中に抱えてしまった。
「なっ……! せやから、誤解やねん。あれは……ちょお間違ってしもただけで」
俺は、チョコを取り返そうとに手を伸ばすけど、は一歩下がって俺の手を払った。
「間違っちゃうほど、どうでもよかったってことでしょう?」
そしては、自分のチョコのリボンを乱暴にほどく。
「何やってんねん! 、それ俺にくれたヤツやろ!?」
「もういいの! 一生懸命作ったけど、私が食べるんだからっ! まどかになんか、あげないん
だから……!」
中のチョコを一つ取り出し、自分の口に放り込んだを俺は抱きしめた。
「んっ……!?」
そのまま、チョコレートを口に入れた意地悪な唇を塞ぐ。
唇を開かせ舌を挿し入れる。甘いチョコレートの味がするキスやった。
が、俺のために作ってくれたチョコレートの。
「いや、離してまどか……っ」
身を捩るを、ぎゅうっと抱きしめる。
誰が離すか。
お前に睨まれて、罵られて、嫌われても。
俺はもう、お前から離れることなんてできへん。
お前を離すことなんて……絶対に無理なんや。
「ごめん。ほんまに俺が悪かった。せやけど聞いて? 俺、今年は以外のチョコはもらわ
へんって決めてたんやで。でも、あのチョコは……何か断る前に相手のコ帰ってしもて、そのま
まやったん。間違えたんは、ほんま俺がマヌケやったんやけど……」
を抱きしめる腕に、俺は力を込めた。
決めてたんや……去年のバレンタインデーから、ずっと。
もう、以外からはもらわへんって。
せやのに、結局貰ってしもてを傷つけたんやから、責められるのは当然なんやけど……。
「……知ってる」
が、小さな声で呟いた。ほとんど聞き取れないくらいに小さな声で。
「?」
俺のシャツを掴むようにして、うつむいたままは話し始めた。
「まどかが今年、他の子からのチョコを断ってくれてたの、私知ってるよ。嬉しかったんだ……
断られた子たちがかわいそうだと思いながら、自分がすごく嫌な子だって思いながらも嬉しかっ
たんだ。すごく。
だから……だからね? あのチョコだけ、まどかが受け取ったのがショックだったの。特別みた
いで……まどかにとっての特別はあのチョコなんだって思ったら。嬉しそうに食べてるまどか見
てたら、すごく哀しくなっちゃった」
そこまで言っては、涙が滲む大きな目を俺に向けた。
その目が、切なすぎて。
俺はたまらずに、その涙に口づけた。
尽……俺、お前の姉ちゃん泣かさへんって約束したのに。
もう泣かしてしもたみたいや……。
「私、ワガママだよね……? まどかは私のこと好きって言ってくれてるのに。
それでも疑って、ヤキモチ妬いて……こんな私、だいきらい」
声をあげて泣き始めたを、俺は今度は優しく抱きなおす。
「。俺は大好きやで? そんな」
のためやったら、土下座だってなんだって何回もできるくらい。
どれだけでも無様になって醜態を晒してやる。
それでも、が俺の傍におってくれるんなら。
「まどかぁ……」
俺にしっかりとしがみつくの髪や背を、俺はずっと撫でていた。
しばらくして、ようやくは泣き止んで。
うさぎみたいに真っ赤になった目をあげて照れくさそうに笑った。
「ダメだなぁ……今日は、ずっと怒っていようと思ったのに。まどかが家の前で立ち続けている
の見た時から、もう意地張れなくなっちゃった……」
そして俺たちは、顔を見合わせて笑う。
どんなにカッコ悪くなっても。
そういうのを見せられる相手やから、こんなに好きなんやろう。
「なあ。俺、まだのチョコ食べてないんやけど?」
そう。さっきが食べたのを、キスで味わった以外は。
するとは、持っていたチョコを後ろに隠した。
「やっぱり、悔しいからこれはあげない。来年までガマンしてね」
なんて。
さっき泣いたうさぎが嘘みたいに、イタズラっぽく笑って俺にチョコを返してくれへん。
「無理やなぁ……来年までやなんて、ガマンできへんわ」
俺はそのままを抱き上げてベッドまで行き、そこにを降ろす。
「が上手く隠してしもたチョコ、探させてもらうからな?」
戸惑った目で俺を見るに、俺はもう一度キスをいくつも落としていった。
CAUTION!
この先、成人向け表現が含まれます。
そういった表現が苦手な方、18歳未満の方はUターンをお願いいたします。
入場なさった後の苦情は受付兼ねますのでご注意ください★
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