信州新町の活性化のための提言

                      山穂刈又田羅  金子量昭

一、優先順位の問題

 政策に当たっては、優先順位の問題が最も大切であると考える。した方がよい事は山ほどあるが、予算が限られている。従って、何をすべきかという事と共に、何はすべきでないかということも、重要である。それは、優先順位の高い物の実施が、それによって妨げられないためである。
 優先順位の第一は雇用の確保(または、産業の育成)である。第二が生活環境の向上である。
 戦前のことであるが、群馬県の北部の尾瀬のそばに、三菱の根羽沢鉱山というのができた。全くの山の中に町が出現した。日本中から集まった労働者がそこで暮らし、小学校や映画館ができた。東京から消費物資が直通で送られてきたため、沼田市よりも物資が豊富であったと言う。里の子ども達は、沼田市に行くよりは、山の中の根羽沢に行きたいと言ったという。しかし、戦争前には閉山となったため、みるみる住む人はいなくなった。戦後は全くの荒れ野原となり、今は保安林となって、当時の面影をうかがい知ることは殆どできない。
  これは、産業があって初めて人の住むところが決まる、という事例である。信州人(特に西山地帯)は、なぜ広い道が全くなく交通不便地である山の上や山の中腹に多く住んでいたのであろうか。山の中腹より高い所の方が平坦で、そこに農業という産業を起こし得たからである。第二の理由としては、水害や戦乱から免れることができたということもあろう。しかし、人がそこに住むか否かは、産業いかんにかかっているのである。次に、そこに通える範囲で、居住に適している場所かどうかが問われる事になる。従って、信州新町の活性化を考える上でも、この順序が大切である。
 

 主要交通網の確保

 産業の育成と生活環境の向上の土台となるのが、交通網である。とくに、高速道路のインターや新幹線の駅、空港までの距離や所用時間が特に大切である。そのためには、長野市に至るオリンピック道路だけでなく、水内からトンネルを開けて、更埴インターに10分で到達する道をつくる必要がある。それはまた、篠の井方面に通勤する人のベッドタウンとして、開けていくことにもなる。
 

二、産業の育成について

 産業のある場所の周辺に住居があるとすれば、農林業という産業が衰退している今、山村に住む必然的理由は存在しない事になる。また、信州新町に若者が勤める魅力のある職場がないとすれば、信州新町に住む理由もない。従って、以上の観点から考えるならば、山村が滅び行き、信州新町が過疎指数50年(同じ人数で減り続けたとしたときに、人口がゼロになるのにかかる年数 注:私が考えた指数)であるのは、当然の事といえよう。
 本来その地域に発生した産業は、他の地域に比べ何らかの有利な点があったわけである。すなわち、農業では適地であるか、工業では原料の産地であるか、消費地に近いか、交通の便が良く輸送に有利であるか、労働力の確保によい場所であるか、観光・サービス業であれば、より魅力的な場所を近くに持っているか、等であり、商業はそれらの場所に付随して発達するものである。
 従って、企業の誘致や産業の育成を考える上で大切な点は、他の地域と比べて、一項目でも有利な点を持っていることである。さもなければ、安い労働力を供給できるという町民にとっては有り難くない長所だけが、新町に企業が存続する唯一の理由という事になる。
 こうしてみると、他の地域よりも何らかの点で、新町にあった方が有利だという産業は、一体何であろうか。一体、そのような企業を誘致できるであろうか。せいぜい、原料が新町で供給できる産業くらいで、そうなれば非常に限られてくる。その意味で、私は優良企業の誘致の可能性に付いては、悲観的にならざるを得ない。従って、他の産業でしかも山村において唯一の活性化している産業…観光、やそれに関連にした付加価値の高い農林業の育成をはかり、又、少しでも新町にあった小企業を育成していく他はないのではないだろうか。
 

 @観光

 これから述べることは、可能かどうか試行錯誤と多くの実験を必要とするものであるが、しかしだれにでもすぐ出来ることは他の地域でもやっており、新町独自のオリジナリティーを持った産業の育成は、時間と労力を費やさなければ、決して可能とはならないと思われる。

 1、昆虫の里

 かぶと虫の養殖は、簡単なので各地で行われているが、市場では一匹500円位である。しかし、くわがた虫の養殖となると困難が伴い、おおくわがたは一匹10万円以上で取り引きされており、黒い宝石とも呼ばれている。新町は、自然が豊富であり、昆虫も多く、またくわがた虫を養殖するためのくぬぎやならも多い。茸のほだ木のかすは、くわがた虫の養殖に使えるし、さらにそれがくずれた木のかすやえのきのかすなどは、かぶと虫の養殖に使える。それを中核として、新町の昆虫の飼育セット(ミヤマカラスアゲハ等)の販売、標本の展示や昆虫園を観光の中心にし、様々な昆虫グッズの製作・販売を手がけてみては、どうであろう。

 2、水上スポーツセンター

 楼閣湖をふくむ犀川を水上スポーツのエリヤとし、新町橋より下流をウォーターバイクの練習場として指導員を置き、だれでも練習でき、免許もとれるようにする。上流をカヌーの練習場とし、さぎり荘にその出発点を設ける。若者の水上スポーツのメッカをめざす。

 3、さぎり荘関連施設の拡充

 坂井村にも昨年出来たが、クアハウスと温水プールを併設する。さらにそのまわりに、スポーツレジャーランドを拡充していき、一日来て、遊んだり食事をとったり出来る主要観光施設をめざす。

 4、大花見池、小花見池周辺の開発

 長野市や大岡村と共同で、大花見池と小花見池周辺を開発し、学生キャンプ村及び高原学校を作る。各種サークルや部活動の合宿に、宿泊施設、運動場、体育館を建て、冬季は、クロスカントリースキーのコースを作り、貸しスキーや指導をする。

 5、新町スカイラインの整備

 さぎり荘を出発点として、信級の祖室渓谷を見、あるいは左右高原でフィールドアスレチックをしたり、そばを食べる。中村では炭焼きや木酢液の展示、説明、即売をする。峠の信級レクリェーションセンターでは、長者山おやきの実演、即売をする。新間を通り、柳久保池でつりをし、釣り堀で焼き魚を味わえるようにする。鷹之巣を通り、宇内坂では、陶芸の実習、展示、即売をし、萩野のモトクロスコースでは、行った人がそのコースで運転が出来るように、バイクの貸出をする。表立屋の付近でアルプスを見るための駐車場を含めた展望所を作り、望遠鏡や四季の写真を展示する。菅沼を過ぎた辺りで、もう一つ展望所を作る。栃久保から越道に至り、別コースとして、小川村久木のおやき村を経由する。本村から赤芝、枌の木、上日時を経て、新町美術館に至る。牧野島城祉を見てから、小花見池に至り、大花見池から、芦沼を通り、大岡村の上中山から一倉田和を経て、和田ノ城を通りさぎり荘に戻る。
 以上が一周コースであるが、中間コースとして、鷹之巣から味藤を経て、蟻之尾から五百山に出て、町におりるコースを設ける。さらに、別コースとして、柳沢から寺尾、二丁田を経て、地場産で買い物をし、久米路峡を見て、美術館に至る。
 この新町スカイラインから見られる景色を八カ所選び、新町八景として絵はがきを作って売り出し、各ポイントに駐車スペースを作る。候補としては、祖室渓谷、表立屋と菅沼の境界付近からのアルプスの眺め、栃久保へ行く途中の菅沼からのアルプス、枌の木からの中条村方面の眺め、上日時を下った辺りからの楼閣湖や新町の眺め、牧野島城祉、牧野島から見た犀川の眺め、小花見池、和田之城からの犀川、新町方面の眺め、五百山からの新町の眺め等が挙げられる。
 グルメ&アートと関連づけてこれを活用すれば、この新町八景の風景画展等を催し、各ポイントに飾ったり、美術館やさぎり草などに展示して、宣伝に用いれば良い。また、グルメとしては、サフォークや長者山おやき、左右のそばの他、各種山菜料理やきのこ料理等の開発研究をしてはどうであろうか。
 

 A企業誘致

 企業にとって土地の買収が、設備投資における大きな負担となる。従って、土地を、進出する企業に安い経費で貸し出すシステムをつくるべきかと考える。または、その土地に建物を建て、それを土地ごと貸し出すのでも良い。そうすれば、進出の経費もそれに伴うリスクも少ないし、誘致しやすくなるであろう。
 

 B農業

 傾斜地が多く、運搬や大型機械の使用には不便であり、かつ市場からも遠いという事で不利な点が多く、従って後継者も殆どいないという実状ではなかろうか。従って、適地と言える品目の開発に勤めると共に、観光農業的なものをめざしたらどうであろうか。
 観光農業としては、まず、りんごがりやぶどうがりといったもので、直接観光客を招く方式がある。これには、適している場所は限られており、まず、国道から大型バスが入れる場所で、駐車場がその農園に隣接していることである。そして、傾斜も特にりんご園は殆どないところということになる。これには、見込みのある地区には町として道路改良に取り組むべきであり、観光客が来れば、そこでまた付帯的な地場産店なども栄えてくることになる。
 次に、直接観光客を招けない農園については販路の確保に努め、高速道路の開通と共に観光客が激減すると予測される19号線沿いの地場産センターの生き残りもかけて、高速のサービスエリヤに地場産の出店を作るよう努力する必要がある。
 

 C商業

 本来商業は、町にとってみれば内需型の産業である。町の外側から金を稼ぐことができる観光的な商業は別として、内需の拡大が商業の発展となるわけである。つまり、内需の拡大のためには、他の産業が発展して町民のふところが豊かになるか、あるいは、買いたい物が手ごろな値段で豊富にあるか、ということになる。従って、商業の発展のためには、他の産業の発展が第一である。
 次に、町民が町内で買い物がしたくなる商店であることが第二である。しかし、残念ながら私が耳にする新町商人という言葉は、悪い意味で使われている。それは、高い、新鮮でない、愛想やサービスが悪い、ということであり、それに加えて、駐車場がない、道が狭いという悪条件が重なる。もちろん、様々な店があるので、一概に言ってしまうのは良くやっている店に失礼であるが、このような悪い評判はなんとしても取り除くようにすべきであると考える。
 また実際、町内の商店に落とされるべきお金が、長野市や篠の井方面に、大分流れてしまっている。車があって、町外に通勤している人など特にそうであろう。
 商店街については、時代の変化を分析すべきである。つまり、歩行者中心の商店街から、車社会に対応したドーナツ型商店団地や大駐車場を持つ大型店、または小駐車場を持つコンビニエンスストアーへの変化である。今までは、商店街にバス等で来て、商店街を行って来て、またバス停にもどるという直線的な商店街であった。しかし、それが成立するのは駅前商店街位なもので、今では、大駐車場の周りを商店が取り囲む、駐車場中心の商店街になりつつある。
 従って、既存の商店が生き残るためには、各ブロック毎に駐車場を作るか、駐車場を中心に、テナントとして店を出すかのどちらかになるであろう。
  そこで、次のことを提言したい。役場跡地に相当の広さの駐車場を作り、ビルを建ててそこにテナントとして参加する店を募集し、ショッピングセンターを作る。さらに、八十二銀行や他の集客力のあるものを併設する。テナントとして参加した店で、今までの店を閉めるところは、他の周りの商店の共同駐車場として利用する。
 

三、生活環境の向上

 山村や信州新町に住む必然的理由が存在しないならば、どうしてこの町が活性化しなければ、ならないのであろうか。産業がもっと盛んで、しかも近くに住むのに適した場所は、日本の国にも沢山ある。そのような場所に皆住んで人々が幸せに暮らせるならば、土橋や寒の子、赤虫、穴の尾等のように、新町が廃村となって行ってもいいではないか。あとは、先祖代々住んだ場所を守りたいという思いと、親の面倒を近くでみたいという親孝行的動機で住んでいるだけではないのだろうか。
 しかし、あえてこのような山の中に住む事になった私自身の動機の中に、このような自然の中に住んでいる地区が日本のどこにあるだろうか、と考えたことである。これほどの自然の中に居住するという、他の地区から見るならば驚異的な場所に、信州人は先祖代々住んできたのである。このような貴重な場所が滅びて行くのをただ見ているのはしのびない、それが私自身の町政の問題を提言したくなった動機である。
 信州新町の居住環境は他の地区と比べるならば、確かに悪く十年は遅れていると言わざるを得ないであろう。しかし、逆に都会には全くない特異な自然環境もあるのである。従って、欠点を矯正しつつ長所を売り込んでいく事が大切と思われる。
 

 @住宅

 住宅地の分譲もよいが、人口の増加を考えるならば、新婚家庭が住める賃貸住宅を建てることが、必要である。分譲地を買える経済力は、新婚家庭にはない。子供がこれから生まれようとしている家庭が借りる事が出来る程度の料金にして、3DKの広さは必要であり、所得制限をもうけない事である。
 山村は、廃屋や住む人のいない家が増え、将来的には廃村を余儀なくされている。かと言って、そこに住む経済的メリットは殆どないため、借りる人や住む人を求めても、あまりいないであろう。しかし、信州新町ではそうであっても、都会の人にしてみれば、逆に最高の自然環境とまた古来人間が持っていた生活環境がある、ということになる。そこで、町内の空き家をリストアップし、持ち主の承諾を得て、農地付き貸家を都会の人に売り込んではどうであろうか。もちろん、普通のサラリーマンが借りるはずはないが、別荘地として、あるいは、芸術家や作家、また自宅でコンピューターを使った関係の仕事をしている人など、都会の雑踏を逃れて、自然の豊かなところで、生活したいと思っている人は多いはずである。
 

 A福祉

 老人福祉に付いては、老人福祉センターもあり、なかなか進んでいるのではないかと思われる。しかし、それに比べ、子どもたちや若い主婦をとりまく環境は最悪であると言わざるを得ない。政策の決定者が老人であるから、そうなってしまったのか、と勘ぐってしまうほどである。一体、嫁不足が問題となっているが、どうしてこんな所にあえて嫁に来るであろうか。よほど、旦那の魅力に取り付かれなければ、無理というものだ。まず、第一に上記の住宅問題がある。この山の中で旦那の家族と一緒に引きこもっているだけでは、同世代の人と交流する場もなければ、出ていく場所もなく、ひたすら孤独に耐えなければならないであろう。その点、町場の住宅地などは近所の同じ乳飲み子を抱える奥さん達と、年中子どもを遊ばせながら茶飲み話が出来るし、子どもにとってもすぐ周りに遊び相手がいて、幸せなものである。私の家などは、半径3km以内に遊ぶ事が出来る友達はいない。
 従って、子どもの未来を考える会が要望しているような児童館と若い主婦達の交流の場となり得る場所は、このような山村だからこそ市部よりもより必要であり、町であっても子どもの遊び場がないのが現状である。それを、現在福祉会館の図書室が殆ど使用されていない現状を考えた場合、新たに図書館を作ったとして、一体どれだけ利用するというのか等という議論は、全くその目的を理解していないのである。主婦達の交流の場が提供できれば、それは図書館でなくてもよいのである。
 

 B自治会の統合、広域消防の設置

 問題は、嫁不足どころではなく、もはや跡継ぎも新町には住まなくなっているということである。これは、私の分類によれば、ただ単に人口が減少している第一過疎地帯ではなく、戸数が減少している第二過疎地帯に入っているということである。そして、将来的には、集落が消滅しようとしている第三過疎地帯に近いと言わざるを得ない。第一義的な問題は、上記に述べたような雇用の問題である。しかし、戸数や人口が激減しつつあっても、組織や役は昔のままであるため、市部に比べれば、若い人の負担は十倍以上である。若者にとっても、新町に住む魅力は少ない。せめて、この負担を緩和していくような施策をとる必要があろう。
 

 Cスポーツ、芸術振興

 信州新町の体育施設も、他の市町村に比べると貧弱なものである。特に、グラウンドと体育館の総合利用が出来ると言う事が大切であるが、町民グランドは、役場庁舎を建ててしまうために、体育館を併設する事が出来なくなってしまった。一体、政策というものは、用地取得の安易さだけを優先して、長期的ビジョンをせずに進めれば、必ず後世に禍根を残す事になるものである。それを悔やんでも間に合わないので、体育館に付いては津和小学校跡地を利用する事を提言したい。
 ソフト面の対策として、人材バンク登録制度を設ける事を提言したい。これは、スポーツや芸術に於いて、特技があり、指導者となり得る人物をアンケート調査に基づいて登録しておく制度であり、何かの企画の時に指導者やその補助者として活躍してもらう方式である。
 

 D大手スーパー等の誘致

 これは、商業の振興と衝突する問題のようにも思えるが、しかし、現実に新町の内需になるはずのお金が、長野市に相当流失している現状を考えれば、それを防ぐ上でも、また住民にとっても、町内にお金が落ちるようにした方がよいのではないだろうか。それによって、たとえ廃業を余儀なくされても、代わりにその店に雇ってもらっても良いのではないか。既存の商店に取っては、きびしいことではあるが、どっちみち町外に流失する傾向はさらに高まっていく事を考えれば、いずれ時間の問題と考えられる。 
 

四、村おこし、町おこしの施策のために

 各地で村おこしや町おこしの施策がなされており、成功した例なども報道されている。そこで、この問題の研究のために、村おこし課なるものを作るか、役場職員の中で、一人でも張り付けて、各地の情報収拾やこの町の施策の検討に当たらせることを提言したい。
 
              平成四年三月十六日