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登場人物
ナレーター; ・つばめの友だち1;
幸福な王子; つばめの友だち2;
つばめ; 風;
市議会議員; 学生;
ラッパふき(2人); マッチ売りの女の子;
大学教授; いもの工場のおやかた;
市長; こども 1;
まずしい女; こども 2;
病気の男の子; 神様;
あし; 天使;
第1場 町の広場
・・・・まくがあく・・・
ナレーター:ここは、あるヨーロッパの国の町の広場です。今日は、この国の1 週間つづく秋のお祭りのさいしょの日です。
(右側の台の上に、幸せの王子が立っている。まくがかけられ、その回りを町の 人たちがとりかこんでいる。)
市議会議員:「それではみなさん、これよりこの国で作られた、さいこうのぞう をごらんにいれましょう。それは、つい先日なくなられた王子、人よんで幸せ の王子のぞうです。」
ファンファーレ(二人の人が、出てきてならんで、ラッパをふく。)
(市長がまくをとりのぞく。)
大学教授:(えらそうに)「おお、すんばらしい。なんと、金とほうせきででき ているではないか。これこそ、わが国のげいじゅつの力を国々にしめすものじ ゃ。」
市長:「これを見れば、わが国王へいかの王子をなくした悲しみが、やわらぐと いうものだ。
(横を向いてひとりごとを言う)それにきっとおおよろこびで、わが町に、ほ うびのお金を、たんまり下さるにちがいないて。ウッホッホッホ(回りの人が 市長を変な目で見る)…ウホン(回りを見て、人に聞かれたか心配になってせ きばらいをした)」
男の子:「(王子の回りを回りながら見て、お母さんに)天使そっくりだね。」まずしい女:「本当に天使のようだこと。」
大学教授:(となりで聞いていて)「ふん、天使なんか見たこともないくせに、 どうしてそんなことがわかるのかね。」
男の子:「あの、でも、見たことがあるんです。ゆめの中で。」
大学教授:(ばかにしたような目で、こどもをにらむ)「そんなものは、いるわ けがないのだ。」
・・・・まくをとじる・・・・ ・
第2場 川原
(あしが入場。あしは、ひざまずいて、風になびいている。)
・・・・まくをひらく・・・・ ナレーター:それから、しばらくたった日のこと、つばめたちが、南の国へ行く とちゅうに、この町を通りました。
(つばめ3びきが、あたりをとびまわる。他のつばめはとびさる。)
つばめ:(あしを見つけて)「あれ、かわいいあしだこと。(あしの回りをぐる ぐるとびながら)ねえ、きみを好きになってもいいかい?(とまって)きみの、 その細いこしが、とっても気にいったんだよ。」
(あしは、風にそよぐように、おじぎをする。)
(つばめは、うれしくて、あたりを大きくとびまわる。)
(他のつばめが、もどってくる)
つばめ友1:「おいどうしたんだい、はやく行こうぜ。」
つばめ:「ぼくは、このあしが気にいったんだ。このあしと、けっこんしたいん だ。」
つばめ友2:(他のつばめに)「ばかげたほれこみようだ。」
つばめ友1:「だいいち、あしは、金もないし、それにしんせきが多すぎるぜ。」
つばめ友2:「ほんとに、よわったもんだ。」
つばめ友1:「もうすぐ、冬も来るし、おれたちは知らないよ。」
つばめ友2:「じゃあ、ばいばい。」(2ひきのつばめは、とびさる。)
ナレーター:なかまがいなくなると、つばめはさびしくなり、またこいびとのあ しにも、いやけがさしてきました。
つばめ:「話もしてくれないし、それに何だか男たらしみたいだな、いつも風が 来ると、ぺこぺこ、おじぎばっかりしちゃってさ。」
(右手から、風がやってくる。とおりすぎると、とてもていねいにおじぎをする。)
つばめ:「ちぇ、それにぼくは、旅がすきなんだから、ぼくのつまになる人も、 旅がすきでなくっちゃいけないんだ。(あしに、よびかけて)ねえ、ぼくとい っしょに、旅に行こうよ。」
(あしは、頭を横にふる。)
つばめ:「君は、ぼくを、おもちゃにしていたんだね。なんというやつだ、ぼく の気もしらないで。ぼくは、ピラミッドのところへ行くよ。さようなら。」
(つばめは、とびさる。)
・・・・まくをとじる・・・・
第3場 町の広場 右に幸せの王子が台の上に立っている。
・・・・まくをひらく・・・・ ナレーター:ここは、町の広場です。あしに、ふられたつばめは、こんばん、と まるところをさがして、町にやってきました。
(つばめが、入ってきて、とまるところをさがして、とびまわっている。王子を 見つけてそのそばにとまる。)
つばめ:「よし、ここにとまろう。さわやかな風がふいてくるし、みはらしもい い。(あたり見回して)すごいぞ、金で出来ているベッドだ。さあ、ねるとし よう。」
(王子の足元に、ねる。すると、上からなみだが落ちてくる。)
つばめ:(急に起き上がって、あたりを見回す。)「あれ、どうしたことだ。空 は、よく晴れているし、星もきれいなのに、雨がふっているなんて。おかしい なあ。(また、ねようとする。)
(上から、また1つぶのなみだが落ちてくる。)あれ、全く、へんだなぁ。雨 よけにならないなら、こんなところにいたって、なんになるんだ。ちゃんと、 雨やどりができるところをさがさなくっちゃ。」(とぶじゅんびをして、羽を 広げる。すると、またなみだが、落ちてくる。ふと、上をみあげて、おどろく。)
ナレーター:つばめが雨だと思っていたものは、実は王子の像の目から落ちてき たなみだだったのです。王子の目は、なみだがいっぱいで、黄金のほおを、な みだが流れ落ちていたのです。
つばめ:「いったい、あなたは、だれなのですか?」
王子:「わたしは、幸せの王子だ。」
つばめ:「幸せであるのなら、なぜ泣いているのですか?」
王子:「わたしが、生きていた時は、悲しみとかなみだとか、そんなものがある なんて、ぜんぜん知らなかったのだ。これから、わたしが、生きていたときの ビデオを見せてあげよう。」
(王子が台からおりて、ナレーターのせつめいにあわせて、パントマイムをする。)
ナレーター:王子が生きていたときは、それはそれはたいへん幸せな生活を送っ ていたのです。昼間は馬に乗って、広い広い庭を友だちとかけまわりました。 庭の回りには、高いへいがあって、その向こうに何があるのか、ぜんぜん知ら なかったのです。夜になると、きゅうでんの大広間に、けらいたちを集めて、 ぶとう会をしたのです。きれいに着かざった人たちと、おどりをおどってすご しました。家らいたちは、王子のことを幸せの王子とよび、じっさい、王子は
とても幸せだったのです。王子が死ぬと、人々は王子のぞうを、町の広場に立 てたというわけです。
(王子は台の上にもどる。左がわだけまくをしめ、まずしい女がテーブルに向か ってすわっており、男の子がねている場面をじゅんびする。)
王子:「わたしは、死んでからはじめて、町の中を見たのだ。そうすると、今ま で知らなかった悲しい出来事やなみだが、町の中にあるということを知ったの だ。わたしのしんぞうは、なまりでできているが、それでも泣かずにはいられ ないのだ。ずっと町の向こうを見てごらん。」
(左がわのまくを開ける。)
ナレーター:王子がさし示したのは、まずしいいっけんの家でした。まどがあい ているので、中にすわっている女の人が見えました。顔はやせていて、やつれ ており、がさがさの手で針仕事をしていました。そばには、男の子が病気でね ていました。
男の子:「お母さん、頭があついよ。なにか、飲むものちょうだい。」
まずしい女:「さっき川からくんできた水を飲んだばかりでしょ。そんなに、水 ばっかり飲んじゃ体に悪いよ。」
男の子:「水じゃあなくて、ぼくは、みかんが食べてみたいよ。ねえ、お母さん、 のどがかわいたよ、みかんをちょうだい。」
まずしい女:「うちには、みかんを買うようなお金はないんだよ。そのくらい、 おまえも分かっているだろ。」
(男の子は、しくしく泣きだす。)
まずしい女:「さあ、病気が早くなおるように、ねむりなさい。」
ナレーター:王子は、その家の様子をせつめいしてから、つばめに言いました。
王子:「つばめさん、つばめさん、この刀についているルビーをはずして、あの 女の所へ持っていってくれないか?わたしの足は、この台に作り付けになって いるので、動けないんだよ。」
つばめ:「エジブトでは、ぼくを待っています。ぼくの友だちは、広いナイル川 の上をまいあがったり、まいおりたりしているのです。」
王子:「つばめさん、ひとばんだけ、わたしのところにいて、使いをしてくれな いか。あの男の子はのどかからからになっている。」
つばめ:「男の子はきらいです。この夏もわたしに石を投げ付けたんですよ。も っとも、あたりっこないですけどね。(王子の顔をのぞき込んで、悲しそうな 様子をみて)分かりましたよ。ひとばんだけ、あなたの使いになりましょう。」
(つばめは、刀のルビーをとって、とびだす。針仕事をしていた母親は、いねむ りをしている。テーブルの上にルビーをおいてから、男の子の所に行って、あ おいであげる。)
男の子:「ああ、すずしい。きっと、体がよくなっているんだ。」
(つばめは、王子のところへ、とんで帰る。左のまくをとじる。大学教授かがじ ゅんびをする。)
つばめ:「変ですね、回りはとても寒いのに、とてもあたたかい気持ちがするん ですよ。」
王子:「それは、お前が、よい行いをしたからだよ。」
ナレーター:つばめは、ねむくなって、王子の足元でねてしまいました。
(左の まくをあける。)
次の日、つばめは、エジプトへ帰るために、えさを食べ、水あびをして、じゅ んびしました。・
(つばめは、そのパントマイムをする。)
大学教授:「なんとおどろくべきことだ。冬につばめがいるとは。よし、けんき ゅうしつに帰って、ろんぶんを書くことにしよう。これで、またわしは、ゆう めいになれるというものじゃ。」
ナレーター:月が出ると、つばめはまた、王子のところに帰りました。(左のま くをとじる。マッチ売りの女の子がじゅんびをする。)
つばめ:「エジプトに何かごようはありませんか?これから出発しますから。」
王子:「つばめさん、つばめさん、もうひとばん、わたしのところに、いてくれ ない?」
つばめ:「エジプトでは、ぼくを待っています。あした、ぼくの友だちは、大き なたきの所までとんでいってるでしょう。」
王子:「つばめさん、下の広場を見てごらん。」(左のまくをひらく。)
ナレーター:王子がつばめにさし示したのは、小さなマッチ売りの女の子でした。 マッチをどぶに落としてしまって、売り物にならなくなってしまったのです。 くつもくつ下もはいておらず、お金を持って帰らないと、父親にぶたれるので す。それで女の子は泣いているのでした。王子が、その女の様子をせつめいす ると、つばめは、王子に言いました。
つばめ:「もうひとばんだけ、ごようをつとめましょう。もう一つのルビーを持 っていってあげましょうか?」
王子:「もうルビーは、ないのだ。残っているのは、この目だけなんだ。めずら しいサファイアで出来ている。この目をぬきとって、あの女の子にやっておく れ。そうすれば、父親にぶたれずに、すむから。」
つばめ:「王子さま、そんなことは、できません。」
王子:「つばめさん、わたしの言いつけどおりにしなさい。」
(つばめは、王子の目をひとつぬきとると、女の子の所へとんでいき、その前を かすめて、女の子の手の上にルビーをおいていく。)
女の子:「まあ、なんてきれいなガラス玉なんでしょう。よかった、これでお父 さんにしかられなくてすむわ。」(女の子は、家へかけもどる。)
(つばめは、それを見てから、左手へとびさる。)
ナレーター:次の日、つばめは、みなとで一日をすごし、それから王子の所へ行 きました。
(つばめは、ステージを一回回ってから王子の所へ行く。まくの左がわをしめ、 学生がじゅんびする。)
つばめ:「王子さま、おわかれを言いにきました。」
王子:「つばめさん、つばめさん、もうひとばん、ぼくのところにいてくれない?」
つばめ:「もう冬です。もうすぐ、つめたい雪がふるでしょう。王子さまのこと は、けっしてわすれません。来年の春には、王子さまがあげてしまったほうせ きの代わりに、きれいなほうせきを2つ、持って帰りましょう。」
王子:「この町のずっと向こうがわのやねうらべやに、ひとりの学生がいる。」
(まくの左がわをあける。学生がつくえに向かって、字を書いている。)
「いっしょうけんめい勉強しているのだが、とても寒くて、もう、字がかけな いのだ。」
ナレーター:その学生は、火をもやすまきもなく、食べるものがないので、おな かがすきすぎて、目がまわりそうになっているのでした。」
つばめ:「もうひとばんだけ、あなたの所におりましょう。でも、あなたの目を ぬきとるなんて、ぼくにはできません。そんなことをしたら、めくらになって しまいます。」
王子:「つばめさん、わたしのいいつけどおりにしなさい。」
(つばめは、王子の目をぬきとって、学生のつくえの上にのせる。学生は両手で 頭をかかえていて、つばめが来たことに気付かない。つばめは、左てで見てい る。)
学生:(ふと、顔をあげてサファイアを見て)「わぁ、これはすごいぞ。すばら しい、ほうせきだ。きっと、だれかがぼくにおくってくれたんだ。これで、寒 さにこごえなくてもすむぞ。さあ、もうひとがんばり、勉強しよう。」
(つばめは、王子のところにもどる。左のまくをしめる。こどもと市会議員がじ ゅんびをする。)
つばめ:「王子さま、あなたは、もうめくらになってしまいました。ですから、 ぼくがいつまでも、あなたのそばにいましょう。」
王子:「いや、つばめさん、君はエジプトに行かなくてはいけない。」
つばめ:「いいえ、ぼくは、あなたのそばにいます。」
王子:(間をあけて)「つばめさん、それなら、わたしの町の上をとんで、目に うつるもののことを話しておくれ。」
つばめ:「わかりました。王子さま。」(つばめはとびたち、左のまくあける。 子どもが寒さにこごえて、だきあっている。)
ナレーター:つばめが、町の様子をよく見ると、ごうかなやしきで、ぜいたくに おどったり遊んだりしている人たちがいるかと思うと、一方では門の所ではこ じきがすわっていたり、橋の下では、こごえている子どもがおりました。
子ども1:「おねえちゃん、寒いよう。」
子ども2:「亜紀、がまんをするんだよ。こうにやって、こすれば、あたたかく なるよ。」
子ども1:「おなかも、すいたよう。食物ちょうだい。」
市会議員:(出てきて、子どもを見つけ)「こんなところに、ねちゃあいかん。 この橋はお前たちの家ではないんだぞ。」
ナレーター:こうして、子どもたちは雨の中においだされたのでした。
(それを見て、つばめは、王子の所へとんでいく。左のまくをとじる。子どもが じゅんびする)
ナレーター:それらの様子を、つばめは、王子に知らせました。
王子:「わたしの体は、じゅんきんでおおわれている。それを、1まい1まいは がして、まずしい人々にやっておくれ。」
つばめ:「言われるとおりに、いたしましょう。」(金のおおいをはがして、持 って行く。)
子ども1:「あっ、つばめだ。いまごろ、つばめがいるよ!」
子ども2:「本当だ。どうしてだろう…?。あっ!何か落として行ったよ。」
子ども1:「これは、金じゃない?おねえちゃん。」
子ども2:「そうだよ。すごい!金だ、金だ。」
子ども1:「もう、パンが食べられないことなんてないね。」
子ども2:「やったぁ!さあ、食べ物を食べよう。」
(子どもは、左てにたい場し、代わって、男の子とまずしい女が入場する。つば めは、もう一度もどって金を持ってくる。)
ナレーター:つばめは、何度も何度も金をはいでは、まずしい人たちにくばって まわりました。そうして、やがて雪がふってきました。とうとう、つばめは、 自分の死ぬ時が近づいたことを知りました。やっとのことで、つばめは、王子 の所へたどりついたのです。
つばめ:「さようなら、王子さま。」
王子:「君がやっと、エジプトへ行くことになってうれしいよ。つばめさん」
つばめ:「ぼくが行くのは、エジプトではありません。死の家に行くのです。で は、さようなら。」(つばめは、王子の足元に落ちて死ぬ。)
ナレーター:そのときです。王子のかたいなまりの心ぞうが、ぱちりとまっぷた つに、われたのです。(間をあける。)
ナレーター:次の日の朝早く、広場に市長や市議会議員がやってきました。
市長:「おやおや、幸せの王子は、なんてみすぼらしいみなりをしているんだ。」
市議会議員:「ルビーは、刀からぬけ落ちているし、目もなければ、きんぴかじ ゃあない。」
市長:「まったく、こじきのようだ。」
市議会議員:「それに、きたない、死んだ鳥が足元にいるとは。」(けとばして、 ころがす。ごみすてばにころがって、代わりに、ぬいぐるみをおいて、たい場。)
市長:「あんなぞうは、こわして、べつのぞうをたてねばならん。そしてそれは、 わしのぞうにしよう」
市議会議員:「とんでもない、わたしのぞうこそ、たてるべきです。」
市長:「いや、わしだ。」
市議会議員:「いえ、わたしです。」(そのまま、けんかになり、けんかしなが ら、右てにたい場。)
ナレーター:けっきょく、このぞうはとりこわされることになり、いもの工場の 親方が、このぞうをとかしてかたづけることになりました。
いもの工場の親方:「さて、このぞうを、たおしてと…。」(たおして、ひきずっていく。)
ナレーター:いもの工場の親方は、幸せの王子のぞうを火でとかしましたが、ど んなに熱しても、こわれたしんぞうだけは、とけることはありませんでした。
いもの工場の親方:(しんぞうを持って出てくる。)「おかしいなぁ、いくら火 をつけてとかしても、このしんぞうだけは、とけないなんて。まあ、こんなも のは、いらんわ。」(しんぞうをほうりだす。)
ナレーター:いもの工場の親方は、幸せの王子のしんぞうを、つばめがすてられ たごみすてばにすてました。やがて、この町に天使がやってきました。神様が、 天使におっしゃいました。
神様:「この町で、一番すばらしいものを、2つもってきなさい。」
天使:「かしこまりました。」(出て行って、町中をまわり、ごみすてばの王子 のしんぞうとつばめをとり、しょうめんの所に持って出る。)
天使:「神様、わたしは、この2つをえらびました。」
神様:「あなたは、正しいえらびをした。天国のわたしの庭で、このつばめは、 ずっと歌い続けわたしの黄金の町で、幸せの王子は、わたしをほめたたえるで あろう。」